1級販売士 記述式問題講評(第36回)
第36回の日本商工会議所発表の講評は以下の通りです。以下、日本商工会議所の資料より引用します
第36回1級販売士検定における記述式の講評
1.小売業の類型
【第6問】 小売業がチェーン展開を行う際にとる組織形態の一つであるフランチャイズ・システムに関する知識を問う設問です。フランチャイズ組織には様々なメリットがありますが、その中でも大きなメリットとして、小売店舗経営に必要となる経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・技術・ノウハウ)を獲得するための投資リスクを軽減する効果があげられます。 今回の設問では、本部と加盟店それぞれにとっての投資リスク軽減効果を正確に把握できているかを確認しました。全体的な傾向としては、①本部側の投資リスク軽減効果について、人的資源(ヒト)と地域の消費者ニーズ情報に対する投資リスクの軽減効果に言及していない、②本部にとっての効果と加盟店にとっての効果を部分的に混同している、受験生が多く存在しました。また、細かいところでは、本部側の投資リスク軽減効果に関する解答で、「加盟店は出店予定地域で既に店舗を経営している」「加盟店は土地を自ら所有している」といったように、必ずしも今日のすべての出店ケースに当てはまらない記述が見受けられました。 また、本問が、マークシート式ではなく記述式である意味を深く考えず、単語を列挙するのみにとどまったり、箇条書きで解答した受験生が一定数存在した点が大変残念です。
【第7問】 近年、注目を集めているジャストインタイム物流システムの概念とその特徴について確認する問題でした。一般的な物流システムや納品システムの説明など、ジャストインタイム物流システムとは直接的な関連性が薄い記述も多くみられ、点差が開きました。この設問では、それが要請された背景、構築の目的、手段、現時点における効果、改善すべき点、などを要領よく整理して解答することが重要です。
2.マーチャンダイジング
計算式ならびにその留意点および計算そのものを問う設問です。計算式の意味と方法を理解していれば、この2問で本科目の半分(50点)を得点することが可能ですが、結果は大きく2分化し、総じて平均点は低水準にとどまりました。その理由としては、計算式をきちんとマスターしていないことにあると考えられます。マーチャンダイジング科目の学習には、各種計算式の理解と演習の積み重ねが必要です。
【第6問】 月間仕入れ枠の計算方法を問う問題です。これは、「何を目的として月間仕入れ枠を設定するのか」という指示文を理解していないと、答を取り違えてしまいます。重要な点は、「最寄品分野」と「商品管理を行う上での」月間仕入れ枠を指示していることに回答しなければならないということです。 解答としては、ファッション衣料品分野での解答、経済的発注数量の計算式、年間での仕入れ枠からの月間分配方法などの間違いや、漢字の誤記といった不正確なものが数多く見受けられました。また、計算する際の留意点については、様々な解答がみられましたが、百分率変異法を用いることと、季節変動指数に用いる数値を売上の季節変動指数とすることを記述しなければ残念ながら得点には至りません。この2点についての記述がほとんどされていなかったことから、受験者の方々の理解力不足を指摘できます。
【第7問】 GMROI(商品投下資本利益率)の意味と計算式の理解とを問う問題です。GMROIには、いくつかの計算式があり、どれを使っても正しく計算できれば得点できます。しかし、この問題も優劣は大きく2つに分かれました。つまり、GMROIの計算式を理解している受験者は解答ができましたが、計算式をマスターしていない受験者は解答できていませんでした。 特に、売上高総利益率、商品投下資本回転率、交叉比率などの概念を十分に理解していなければ、計算問題を解くことは難しいといえるでしょう。今後も、重要な比率の意味と計算式をしっかりとマスターしておく必要があります。
3.ストアオペレーション
総じて理解度の高い結果となりました。特に、第7問については、ほとんどの受験者が得点していました。学習効果が如実に表れたといえるでしょう。
【第6問】 クロスマーチャンダイジングの意味を問う問題です。クロスマーチャンダイジングの意味をある程度理解していることで確実に得点を得られ、平均点はおおむね良好だったといえます。ただし、多くの受験者はクロスマーチャンダイジングと関連(コーディネート)陳列を混同していたようです。したがって、その部分(テーマ設定と商品の抽出)については、あまり得点が高くなかったと言えます。 特に、「冬の鍋祭り」や「バレンタインデー」、「クリスマス」といった抽象的な季節のテーマの解答が多くみられました。同時に、対象となる商品についても関連性がある商品を羅列してみたり、関連性はあるものの適合性がなかったりする点でクロスマーチャンダイジングとはいえない解答が目立ちました。 たとえば、「冬のあったか鍋」というテーマを記述した解答です。このテーマは、抽象的であり、さらに、対象商品には、野菜、魚、肉、などの大分類での品種をフルラインで記述するケースが目立ちました。しかし、消耗頻度の似通った商品同士を同時購買させるクロスマーチャンダイジングの主旨に合致しません。これは、あるテーマに関係する商品を幅広く集め、一つの売場をつくる、関連(コーディネート)陳列です。 また、「鍋」というテーマの対象となる商品に「ポン酢と土鍋」などを記述した解答です。これは、両者の消耗頻度が異なり、隣接陳列しても同時購買する確率は低いです。もうひとつのケースを見ていきましょう。「就職活動の応援」という抽象的なテーマで、スーツ、ネクタイ、ワイシャツ、靴下、ハンカチ、靴、カバン、手帳、ノート、ペンといった商品を記述した解答がありました。これは、クロスマーチャンダイジングのテーマではなく、抽象的な季節の販促テーマです。したがって、それに関連した商品の羅列はコーディネート陳列の対象であり、クロスマーチャンダイジングの対象になりうるものではありません。 クロスマーチャンダイジングとは、ある売場の主力商品、または推奨したい商品などに生活シーンなどの具体的なテーマを設定し、異なる品種からテーマに適合する商品を抜き出して隣接陳列します。そして、それらを同時購買させるインストア・マーチャンダイジングの手法です。ある商品とある商品を同時購買させるための部分的なディスプレイ手法であり、トータルとしての売場をつくる手法ではありません。広範囲の商品を一つの売場にまとめる手法ではないのです。この違いを正しく理解していなければ、満点はとれません。テーマを広げ過ぎると、対象商品の範囲が広がり、関連する商品数も増えてしまうので、クロスマーチャンダイジングではなくなってしまうので注意が必要です。
【第7問】 計算問題は、十分な演習を積んできたことが如実に表れていました。それが高い平均点をもたらしたと指摘できます。ほとんどが正解であり、一部に円や点などの単位が欠如していたり、計算上の桁数違いが見られたりする程度の間違いしか見当たりませんでした。ストアオペレーション科目においても、今後も計算問題の演習を行うことが望まれます。
4.マーケティング
【第6問】 ストアコンパリゾンは、競争店の長所・短所などを探り、それらの項目を自店と比較検討し、自店の経営改善に活用し顧客満足度を高めていこうとするものです。そのためには、競合店と自店を客観的に比較できる項目をあらかじめ設定しておかなければなりません。 調査すべき項目は、①競合店の概要、②物件の特性、③所属チェーンの特性、④インストアマーチャンダイジング、⑤商品の鮮度管理・品質・価格、⑥クリンリネス、⑦接客などがあります。第6問は、その中の④インストアマーチャンダイジングの調査内容にはどのようなものがあるか具体的に挙げてもらう問題でした。 インストアマーチャンダイジングとは、小売店内での顧客の購買を高めるための種々の販売促進手法を指します。具体的なチェックポイントとしては、①売場全体の統一感、②売場構成、③品ぞろえ、④プロモーションの実施内容などが挙げられます。①~③は、スペースマネジメントに関する事項で、店内のコーナー割り・棚割りのフロアマネジメントや、陳列棚・コーナー内における商品陳列のシェルフマネジメントなどが挙げられます。また、④は、インストアプロモーションに関する事項で、店頭イベント、サンプリング、クーポン、特売、チラシ、ノベルティなどが挙げられます。 インストアマーチャンダイジングは、スペースマネジメントとインストアプロモーションから構成されていることをしっかりと把握し、それぞれについて他店と自店とを比較することで、自店の経営改善を図っていくことが大切です。
【第7問】 小売業のマーケティング・ミックスの要素を問う問題です。メーカーのマーケティング・ミックスは、①Product(製品)、②Price(価格)、③Place(流通経路)、④Promotion(販売促進)の4Pで構成されていますが、これを小売業の視点に立って述べてくださいという設問です。 したがって、①は、単品の製品ではなく品ぞろえ(マーチャンダイジング)としてのProduct、②は、地域性、競争店、自店の経営方針を考慮した売価設定としてのPrice、③は、流通経路というよりも、地域あるいは顧客との関係性を重視した立地と業態としてのPlace、④は、プル戦略としての販売促進と店頭店内におけるインストアプロモーションと人的サービスを重視したサービス、という視点が求められます。 解答内容を見ると、十分に理解していないことから、正確な解答になっている答案と点差が開く結果となりました。また、誤字や脱字のある答案も散見されました。
5.販売・経営管理
【第6問】 年俸制とは、成果主義賃金が年俸というかたちで実現されているものであり、その導入において重要な点は、自分の役割に応じて賃金が決まるので、役割の設定において裁量度が高いということが条件になります。 メリットとしては、目標管理制度を導入して個々の社員の役割を明確化できることや、優秀な人材のモチベーションアップにも寄与します。一方、デメリットとしては、短期的視点で業務遂行されやすいことや、自分の業績にとらわれて組織全体の業績向上への配慮を失う恐れがあること、などが挙げられます。 なお、年俸制では、賞与や手当なども含めて1年間の給与を前もって設定し、それを分割して毎月支払います。年俸なのに毎月支払うのは、日本の場合「労働基準法第24条」で賃金の支払い方法について「毎月1回以上支払う」と規定しているからです。
【第7問】 キャッシュフロー計算書の3つの表示区分について、基礎知識を問う問題でした。2000年3月期より連結財務諸表中心の開示制度へ移行することに伴い、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)を基本とする財務諸表体系にキャッシュフロー計算書(C/S)が加えられ、企業の財務状況はより一層明らかに見られるようになりました。 会計上の利益は、採用される会計方針によって差異が生じますが、キャッシュフローは現金の流出入という事実に基づくものであり、会計上の判断や制度上の相違による影響を受けることがありません。今日のように企業の利益とキャッシュフローの乖離が進行する状況にあって、企業の財務情報としてキャッシュフロー情報の重要性が高まっています。 不正解の例としては、B/SやP/Lに基づく経営分析について解説した答案が見受けられました。C/Sの意義や重要性をしっかり認識してもらい、今回程度の問題であればもっと高得点を期待したのですが、高得点の方と低得点の方に二極化する結果となりました。
第36回1級販売士検定における合格率について
第36回の日本商工会議所発表の講評は以下の通りです。以下、日本商工会議所の資料より引用します。
第36回1級試験は、5科目となった新科目体系による初めての試験で、合格率が例年に比べて高い結果となりましたが、それは主に下記の理由によるものと考えられます。
(1)試験科目数が減少したことにより、受験者数および実受験者数が増加した
第36回1級試験の受験者数は1,373名で、前回と比べて23.8%増(第35回1,109名)、また、実受験者数は1,176名で、前回比31.1%増(第35回897名)でした。試験科目が8科目から5科目に減少したことにより、受験に挑戦しやすくなったものと考えられます。
(2)科目免除制度の経過措置が反映された
従来の科目合格を新しい科目体系に適用する経過措置により、受験科目数の減少につながったことや、また、従来の科目で数多く科目合格している場合には、より高い得点を新しい科目合格に適用させたことにより平均点をアップさせる効果があった-などにより、合格率が高まったものと考えられます。例えば、2科目受験者数は、今回、実受験者に占める割合が4.9%、合格者に占める割合は18.5%でしたが、前回は、実受験者に占める割合が0.3%、合格者に占める割合は2.4%でした。また、3科目受験者数は、今回、実受験者に占める割合が9.5%、合格者に占める割合は27.5%でしたが、前回は、実受験者に占める割合が2.3%、合格者に占める割合は16.7%などとなっており、受験科目が少ない受験者数の割合は、前回に比べて今回の方が多くなっています。(下表参照)
受験科目数 | 実施回 | 実受験者数に 占める割合(%) | 合格者数に 占める割合(%) |
---|---|---|---|
2科目 | 第35回 | 4.9 | 18.5 |
第36回 | 0.3 | 2.4 | |
3科目 | 第35回 | 9.5 | 27.5 |
第36回 | 2.3 | 16.7 | |
4科目 | 第35回 | 9.6 | 7.7 |
第36回 | 4.0 | 16.7 | |
5科目 | 第36回 | 75.9 | 46.3 |
5科目以上 | 第35回 | 93.3 | 64.3 |
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